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災害弱者の避難は困難を極める

災害弱者の避難は困難を極める

台風10号被害 避難マニュアルなし 岩手の9人死亡施設

 大型の台風10号で岩手県岩泉町の小本川が氾濫し、同町乙茂地区にある高齢者グループホームで、入所者9人の死亡が31日確認された。施設の運営者は同日、町が避難準備情報を出していることを把握しながら、入所者を避難させていなかったことを明らかにした。高齢者などは、避難勧告や指示が発令される前の準備情報の段階で避難させることが求められている。また、水害避難のためのマニュアルも作成していなかった。同町の町長も対応が不十分だったとして陳謝した。

 岩泉町は30日午前9時に避難準備情報を発令し、同日午後2時には、施設があった北側の安家地区に避難勧告を出したが、乙茂地区には出していなかった。町長が午後4時ごろから1時間ほど、町内を車で巡回した時は、異常がなかったとしている。

 施設を運営する社団医療法人の常務理事によると、準備情報を把握した後、30日午後4時ごろに小本川の水位を見たところ、氾濫するまで20センチほどあり、過去の台風でも20センチ程度であふれたことがなかったことから、夕方の段階では入所者を避難させなくても大丈夫だと判断したという。ところが、午後6時ごろ車で施設に戻ってくると、既に水が胸の高さまで来ており、施設に近づけなかった。避難マニュアルはなく、水害を想定した訓練も実施していなかった。

 施設は平屋建てで認知症の高齢者ら9人が入居。隣に建つ同会運営の高齢者施設(3階建て)にも約80人がいたが、3階に避難し、全員ヘリコプターなどで救出された。施設には、女性職員が入所者9人といて、水流に流されないよう男性1人を抱えていたが、助けられなかったという。(2016年9月1日 毎日新聞)

 災害弱者とは、高齢者や障害者、乳幼児などの避難に手間や時間が通常よりも必要とする方々のことを指します。災害については、避難準備、避難勧告、避難指示の順番で避難に関しての情報が示されます。これを災害弱者の場合、避難準備は避難勧告、避難勧告は避難指示というように理解して、対応しなければなりません。

 つまり、同施設の場合、午前9時に避難準備情報が出されたときに、避難勧告が出たものと理解し、入所者の避難について具体的な検討を始めなければなりません。そして、台風上陸までには避難を完了しておかなければならいのです。台風10号が大船渡に上陸したのは午後6時なので、それまでには完全に避難を終えておかなければならなかったわけです。

 しかし、そのようにはできませんでした。その理由は、マニュアルが整備されていなかったり、避難準備情報の意味が理解できていなかったり、さまざまなものが考えられます。

 台風は地震と違い予測可能な災害です。でも、風や雨が強くなる前に対応は終えておかなければなりません。その妨げになるのは、雨風が強くなる前に準備して、それが無駄になったらばからしいという感覚です。危機管理とは、災害前にやれることはすべてやって、それらがすべてムダになったとしても事前準備したことを評価するというのが基本です。

 予測可能型の災害に対して、出足が遅れるのは致命的です。社会福祉法人が預かっている命は、すべてが災害弱者です。他の業種の方々よりも素早い判断をし、行動することが求められているのです。

2016.09.02