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保育施設で「助けて」と言えずに亡くなっていく子どもたち

保育施設で「助けて」と言えずに亡くなっていく子どもたち

 先日、保育施設でお子さんを亡くされたお母さんとお会いして、お話を伺う機会がありました。まさか自分の人生の中で子どもを保育施設で亡くし、そのことによって裁判を始めることになるとは思いもしなかったことと思います。

 1歳9か月のお子さんはある日、熱をだしたと施設から連絡があり、お母さんがお迎えに行きました。保育士さんから手渡されたお子さんはすでに心肺停止の状態で、救急搬送されましたが、病院到着後、死亡が確認されました。布団の上でうつぶせで寝かせられ、心肺停止になるまで気づいてもらえなかったということでした。

 わが子に何があったのか知りたい、最後どのように過ごしていたか知りたいとお母さんは思いましたが、施設から真実を教えてもらえずに異なる事実が積み上げられていき、結果、真実を明らかにするために裁判を起こしたのです。

 わが子が亡くなり、身体的にも精神的にもかなり負担がかかっているのにも関わらず、施設の誠意ない対応で裁判をせざるをえなくなり、裁判で生活も一遍します。生活費を切り詰め、お金目当てで裁判をあの家族はしていると世間から冷ややかな目で見られるため、車も買い換えられない、ご近所に笑顔で挨拶しようものなら、お子さんがなくなったのにこの前あそこのお母さん笑顔だったわよと陰口を言われる。遺族は、ずっと苦しめられます。

 子どもを亡くしたという想像しきれないような喪失感と不誠実な施設の対応、世間からの偏見の目。しかし、「不誠実な施設の対応」に関しては、なんとかすることはできると思います。

 死亡事故や重大事故が起きた施設で裁判まで発展してしまう事例のほとんどが「不誠実な施設の対応」が原因だと弊社では考えております。無意識のうちにまずい状況になったとき人間は保身に走ってしまいます。「無意識」な分、自分では気づきません。ということは、無意識に人間は保身に走るとわかった上で行動する必要があります。

 毎年保育施設での死亡事例は起こっています。弊社の研修でもお伝えしておりますが、事故を0にすることはできませんが、軽減をさせることは対策次第でできると思います。

 保育施設でのプール遊び中に溺れて気づかれずに亡くなる子も午睡中にお布団の中で亡くなる子も「助けて」と先生に助けを求めることもなく亡くなっていっています。

 保育施設で働く先生たちの目に映る子どもたちは、目を離したら命が脅かされるほど、小さくて弱くて、かけがえのない存在です。どうか、そんなかけがえのない子どもたちを今日も目を離さずに、命を繋いでいっていただければと思います。

2016.05.02