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アイギスブログゼミナール 第1回 「リスクアペタイト・フレームワーク」

アイギスブログゼミナール 第1回 「リスクアペタイト・フレームワーク」

 2013年11月に金融安定理事会が公表した「実効的なリスクアペタイト枠組みに係る原則」で、始めて概要が整理されています。これはリーマンブラザーズの破綻で不安定になった金融機関経営において、事業目的遂行のために自覚的にとるべきリスクを前面に出した経営の枠組みです。

 これは、金融機関の経営について出てきた新しいリスクテイク方法に関する考え方ですが、私はこれからの保育施設の運営にも必要になる考え方だと思い、今回から始める「ブログゼミナール」の第1回テーマとして取り上げました。

 保育施設の運営や経営でも、一般企業の経営でも、どのリスクを取るのかということの見極めは最大重要事項といっても過言ではありません。保育施設の数を増やして組織化し、その組織の大きさで社会の変化を乗り切るのも戦略ですし、1つの施設を強化することによって社会の変化を乗り切るのも戦略です。どちらにしても、リスクは伴うものなので、どのようなリスクをどこまで取るのかという判断をしなければなりませんし、また、その判断が正しくなければ組織はつぶれてしまいます。

 では、リスクアペタイト・フレームを使った保育施設運営リスクに関する考え方をご説明いたします。リスクアペタイトとは、「経営目標を達成するため、どのようなリスクを、どこまでとることを許容するか」ということです。

  1. 経営目標を決める
  2. それにともなうリスクを抽出する
  3. どこまでリスクを取るのか決定する
  4. それぞれのリスクにヘッジ方法を決め、実行する

 経営目標は、保育施設の場合、人口動態と合わせて考えなければなりません。拡大か、縮小か、現状維持かを見通しを持って決めてください。ここで大切なのが拡大策が積極的で、縮小策は消極的なわけではありません。事業を現状維持するにも戦略は必要なのです。

 経営目標が決まれば、それにともなうリスクを具体的に抽出してください。現在は、1法人で複数施設を運営しているところも珍しくなくなっていますが、規模が拡大すればするほど、リスクも拡大します。園児が増えれば、園児の死亡リスク、ケガのリスク。保護者からのクレームのリスクも職員との労務トラブルのリスクも増大します。もちろん、その代わりに運営費も拡大します。

 リスクの抽出ができたら、どのリスクをどこまで取るのか決めてください。ここで、無自覚にリスクを取るのではなく、自覚的にリスクを取るというのが、リスクアペタイトの特徴的な考え方です。「目標達成のために、このリスクは取らなければならない。」という考え方です。「行政の方に頼まれたから、施設をひとつ増やすことにした。」とかいう考え方ではダメだということです。

 自覚的に取るリスクが決まったら、リスクヘッジ(少しでもリスクが小さくなるための方法を施しておくこと)方法を決めます。ただ、やみくもにリスクを取れば良いわけではないので、リスクマネジメントも同時にしておきましょう。つまり、事業規模に応じたリスクマネジメント方法とリスクコストは用意しなければならないということです。

 以上が具体的な考え方です。リスクとは無自覚に取ってしまいがちです。それを自覚的に取り、目指す目標をできるだけ安全に達成していこうという考え方がリスクアペタイト・フレームなのです。ぜひ、ご活用ください。

2016.08.19