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災害対策マニュアルに欠かせない要素

災害対策マニュアルに欠かせない要素

 先日インターネット上で閲覧できる、高齢者福祉施設向けの水害対策マニュアルを拝読いたしました。その感想をみなさまにお伝えいたします。

 結論から言ってしまえば、この水害対策マニュアルを園のマニュアルとしてしまった場合、大雨、台風が施設を直撃し、洪水などの水害に直面した現場の職員はマニュアルに根拠をもった行動をできないのではないか、つまり、形式上水害対策マニュアル存在するけれども現場の職員は、マニュアルに根拠をもたない、場当たり的な行動しかできないのではないか、と感じました。

 私が拝読した水害対策マニュアルには、過去の事例をもとに水害の際は垂直避難(施設の外に避難するのではなく、施設の2階以上に避難すること)が大切であり、垂直避難に要する時間を短縮させるための方法が記載されている箇所がありました。

 水害の際に垂直避難が大切であることは間違いありません。実際、先月4日、熊本県南部を記録的な豪雨が襲い、特別養護老人ホームの入所者14名が亡くなられてしまった際に、同老人ホームの1階部分に濁流が流れ込んでいます。

 では、ここで質問です。職員はいつ垂直避難を開始するのでしょうか?この水害対策マニュアルには記載がありません。ということは、いつ垂直避難を開始するのかは現場の職員の場当たり的な判断に頼るしかないマニュアルということです。そして、現場の職員の場当たり的な判断に頼る場合、残念ながら現場の職員には正常性バイアスが働いてしまい、今の状況が日常とさほど変わらない状況なのではないかと認識してしまい、その結果、垂直避難を開始するのは危機的状況が目前に迫ってからとなってしまいます。

 垂直避難に要する時間を短縮するよりも、垂直避難を開始する時点を早めた方がより良いのではないでしょうか?当然、垂直避難を開始する時点を早め、かつ垂直避難に要する時間を短縮する方が良いことは言うまでもありません。

 この水害対策マニュアルに欠けている要素は、職員が行動に移るための基準です。言い換えると、このような状況になったら、職員はこのような行動を始めてくださいという、単純明快で誰が見ても判断に困らない基準です。

 水害は予め予想できる災害です。気象庁や市町村長から注意報、警報、警戒レベル、避難慣行避難準備・高齢者等避難開始、避難勧告、避難指示が事前に発表されます。このような情報と職員の行動をつなげることで、現場の職員の場当たり的な判断に頼ることを回避することができます。

 水害対策マニュアルに限らず、全ての災害対策マニュアルに共通することですが、現場の職員が行動する際に、判断に迷わないマニュアルの作成を心がけてください。マニュアルの作成には、緊急事態に直面してしまった現場の職員に対する思いやりが根底になければならないのです。

2020.09.02